三門市の駅前から少し進んだ裏口の店、テーブル席が数えられるほどしかない店のパスタが絶品だ。最近見つけて何度か足を運び、その度に別のメニューを頼んではすべてを美味しく頂いた。ミートソース、カルボナーラ、ボンゴレロッソ。セットのデザートまで完璧となれば言うことはない。
だから当然のように、次回プレゼンの会場はそこにした。
トマトクリームパスタを選んだ二宮は届けられた皿からひと口食べてちらりとこちらを一瞥し、目を伏せ、それからひと言も喋らなかった。それはいつものことだし、気に入らなければそれについて話しかけてくるだろうから気にもしない。ただ内心で拳を握った。この男の及第点はなかなかに嬉しい。
「二宮、来週の概論のレポート終わった?」
「当然だ。終わってないのか」
「あと四割かな」
「明後日は試験じゃなかったのか」
「それはいいよ、もう諦めた」
「ぬるいやつ」
ふ、と息を吐いた。皿の三分の二を空にしたところでグラスの水で口内をリセットしたとき「それ」に気づいてしまって、一瞬対応に迷った。だがそれは瞬き一回より短く、私はすぐさま紙ナプキンを水で湿らせて二宮へ差し出した。
「二宮、胸元」
二宮は顎を引いて、そのまま無表情で固まった。爽やかな色のシャツにトマトクリームのワンポイント。教えないほうがプライドを傷つけなかっただろうかとも思ったが、それより染みになるだろうシャツのほうが気になった。
「ちょっと目立つね、洗ってくる?」
お手洗いを指差してやった、そのタイミングで外から警報が鳴り響いた。ぱ、と二宮の表情が変わる。
「行くぞ」
「もちろん」
店員にトリガーを見せて避難先を指定したあと、「支払い後日で!」と付け加えてから店を飛び出す。
「トリガー・オン」
隣で見慣れたスーツ姿に換装した二宮に倣ってトリオン体になる。その胸元を見て、なんだか急に面白くなった。
「二宮、今日トリオン体のまま帰ればシャツ染みにならないんじゃない?」
「余計なことを言うな」
ぱし、と極小のトリオンキューブが肩を柔らかく打った。射手一位の一撃にしてはあまりにぬるい。
こちらを待たずに歩き出した二宮の背を追って、私ものんびり駆け出した。