あんまり綺麗じゃないよ。綺麗なジャケット着たような人が似合うとこじゃないよ。うるさいかもよ。そりゃあ、味はおすすめしますけども、でも、ほら。
色んなことを重ねて言い聞かせたのに、彼は強情に首を縦に振らなかった。それがなんだ、と言わんばかりのオーラに押し負けたのはやっぱりこちらだ。
網のすぐ上にある太いパイプ、この男の頭くらいだったら入りそうだなと妙なことを考えた。二人席に向かい合って座る午後一時、一人飯のサラリーマンがご飯をかき込む横で、あんまり会話もなく肉を焼いているのが私たちだ。
二宮は上品そうなシャツに紙エプロンをつけてカルビを焼いている。私も網の手前にハラミを並べる。焼き目のついた玉ねぎを引き上げると、真ん中から滑り落ちた欠片が炭の中に落ちていった。
そもそも、二宮とサシ焼肉なんて誰に言えば信じてもらえるだろう。太刀川には疲れからの妄言だと柄にもなく心配されそうだし、加古には根掘り葉掘り聞かれるだろう。諏訪さんは体をくの字に曲げて笑ってくれるかもしれないけど、きっと親身に聞いてくれそうなのは東さんくらいしか居ないか。二宮は箸の持ち方がきれいだから食べるのを見ていても飽きない、まで言うと、さすがの東さんでも苦笑するだろうが。
「焦げるぞ」
会話が途切れて五分、低い声が気にしたのは私のハラミだった。ありがとう、と返すとラリーは終わり。そもそも同じ大学のボーダー隊員同士であっても、B級一位の二宮隊長との接点などほぼない。射手のテクニックを聞いてもポジション違いの私には「勉強になるよ」しか言えない、趣味もとくに合わない。
ただ、食べ物の好みだけは抜群に合った。
「おい」
革靴のつま先を私に向けた偉そうな二宮から「暇か」と尋ねられる。だから私も頷いてタブレットをしまいながら、お昼何食べたい、なんて返す。暇を持て余してテラスでタブレットを弄っていると、たまにそういうことがある。
きっかけは三門市内のお気に入りの個人経営の店で三度も出くわしたこと、しかも全部別の店だった。それからなんとなく二宮とご飯屋の情報共有をするようになって、それじゃあ面倒だから一緒に行く? と最初に言い出したのは私だったが、まさかそれに二度目以降があるなんて思わないだろう。
前回は二ヶ月前、二宮のチョイスだった。だから今日は私のチョイスで、小さな焼肉屋。ランチが安くて美味い。自信を持ってお勧めできる。でも二宮に似合わなかったから撤回しようと思ったのに、恐る恐る「焼肉屋なんだけど」と付け足したところでテコでも引かない空気を感じたので諦めたのだった。
「二宮、もしかして肉好き?」
「いきなりどうした」
「なんとなく」
「嫌いじゃない」
「そっか、よかった」
汗をかいたジョッキのジンジャエールに口を付ける二宮が、「お前は」と続けた。ハラミを口に放り込んだばかりの私は瞬きを返して、質問の意図を探る。でも不親切な二宮は二回目を口にしなかったから、ハラミと一緒に咀嚼する。
「……あ、肉? うん、好きだよ。おいしいよね」
「そうか」
それきり二宮は喋らず、私たちはそれぞれ好きなものを好きなだけ食べてきれいに割り勘して解散した。
で、結局これってなんなの? と聞かれると反応に困るが、名前をつけるなら、友達なんだろう。たぶん。そういうことを酔った勢いで東さんに話したら「二宮はいい友達を持ったな」と褒められたので、私は二宮の友達だ。ぜったい。