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『初出動お疲れさまでした、ゴールデンさん。今夜のヒーローTVで一番目立ってました、上々の、いや、最高のデビュー戦でした。スーツの着心地どうでしたか? あれだけ動き回っても支障ないなら、微調整も必要ないかもしれないですが、念のため明日にでも確認のために格納庫に……ああ、データそこに置いといて、ありがとう――ええと、そう、格納庫に来てください。本当にお疲れさまでした、おやすみなさい』

 初出動があった日の夜、ライアンのPDAにそんなメッセージが入っていた。




「アンタさあ。PDAにメッセージ入れるのはいいけど、ちゃんと時間指定してくんない? こっちも地味に困っちゃうっつーかさ」

「あれ、すみません、「いつでもいいですよ」的なこと言い忘れてました? 基本的に就業時間はずっと詰めてますし、来客もないんで、時間のことなんてさっぱり忘れてました」

 時間指定がなかったので昼時を避けたのに、詰め所のは「あ、ゴールデンさんも食べます?」などと言いながらピクルスのたっぷり乗ったホットドッグをかじっている最中だったので、気遣いが空振りしたライアンは黙ってそれをひとつ受け取る。の抱える袋の中には、ちらりと見えただけでもあと二つのホットドッグが鎮座していた。

 くたびれたソファベッド。の隣を陣取るように、ライアンもどっかと腰掛ける。

「今から昼なわけ? もうランチにはおせーんじゃねえの」

「昨夜のデータ解析がはかどってはかどって。スーツから見た映像も興味深いですし、いやまずは初めてのスーツでもあれだけ動き回れるゴールデンさんの身体能力の高さを実感したというか」

「ふーん。見とれた?」

「もちろん!」

 からかいに本気で頷かれ、少し面食らった。「からかわないでください!」と頬でも赤くして可愛げのあるところを見せるかと思いきやこれだ。

「私の磨き上げたスーツが、あんなにキラキラして、動き回って、歓声を受けている! 見とれないわけないでしょう」

「中身は俺なんですけど」

「知ってますよ」

 あっそ。返事の代わりに、ライアンは大口を開けてまだ温かいホットドッグを頬張った。パキン、と気持ちいい音を立てて割れたソーセージからじゅわっと熱い肉汁が溢れ、慌てることなく舌で舐めとる。ふわっと鼻に抜けるマスタードの辛味もよく利いて、すぐさま二口目を誘った。

「もちろん、ゴールデンさんが着てるから映えるっていうのもあると思いますよ。タイガーさんが着たら「邪魔だよこれ!」とか言って翼もいで捨てそうですし、バーナビーさんはカラーリングが趣味に合わなさそう」
ちゃんさ、遠まわしに俺のことけなしてんの?」

「まさか。ゴールデンさんにしか似合わないように作ってるって話です」

 ゴールデンさんは名前も見た目もキンキラですからね、と、もごもごと大体そんなことを言って、はラッテを煽った。ランチ時にカフェのテラスで見かけた美人はカップを傾ける角度さえ美しかったというのに、地下に居すぎるとみんな「こう」なるのだろうか。頬に黒い油でメイクを施した“ある意味での相棒”に、ふと水を向ける。

「『ゴールド』」

「ゴール……あ、いや、引っ掛かりませんよ。ゴールデンさん」

「へー」

「……なんですか? すごく含みのある笑いですけど」

「いや? ちゃんスーツしか見てなさそうだから、ちゃんと“中身”にも興味持ってくれて嬉しい感激! って思ってたとこ。そのまま俺様の魅力に目覚めちゃってもいいぜ?」

「次までには言えるように、って言ったでしょう?」

「まっじめー」

 軽口は別としても、ライアンが少し驚いたのは本当だった。

 このという整備士は、心底このスーツに惚れこんでいるし、たぶんスーツしか見えていない。昨夜、端末越しの興奮して弾んだ声を聞いて「やっと俺様の魅力に気づいたか」とも思ったが、こうして顔を合わせてみればよく分かった。この大きな子どもは、『ゴールデンライアン』が活躍するのを見て喜んでいただけだ。

 スーツなんて誰が着ても同じだ。もっと言えば、この俺様が着ればスーツの良し悪しなどまったく関係がない。

 ライアンは本心からそう思っていたが、を見ていると、まあ、確かに、着心地と見た目は悪くないんじゃないかとも思え――いやでも、やっぱりそれも全部“中身”あってのことだ。そう結論付けて、ホットドッグの最後の一口を飲み込み、ライアンは重心を倒す。スプリングの弱った張りのないソファが頼りない音を立てて軋んだ。

「で? 今日はナニするわけ?」

「そうですね、何か気になったこととかありました? もしあったらその調整と、あとは……あれ? そのくらいですかね」

「あ、そんだけ? こうやって呼び出し食らったから、ちょっとは怒られんじゃないかって思ったんだけど?」

「怒るとこないですよ。言ったでしょう、『最高のデビュー戦だった』って」

 ほう、と溜息をついて、は表情を緩めた。しかしすぐに眉間にしわを寄せ、あーだのうーだの呻いてから、今度は情けなく眉を下げると、「ゴールデンさん」、と呟いた。一部始終を観察していたライアンは、忙しいやつ、と思いながら、いらえをしてやる。

「……逆に怒っていいですよ。よくよく考えればメールや電話でやり取りしてあとはデータと照らし合わせればよかっただけで呼びだした意味なかったです。すみません、非効率的で」

「まー別にいいけどね。あと、気になることなら一個ある」

「なんです?」

 三つ目のホットドッグをかじっていたが素早くバインダーを引き寄せる手を制して、ライアンは静かに問うた。

「このホットドッグってどこで買えんの?」

 至って、真面目な顔で。