「あー、えーと、ゴールドさん? はじめまして、担当整備士のです。これからそのヒーロースーツの調整などをはじめます。着心地とか不具合とかどうですか、腕部パーツの展開にも問題ないですか。背中の翼が重すぎて立てないってことはなさそうで一安心してますけど。さすがは師匠開発のスーツ。あ、スーツについての不満は極力フィードバックさせますから忌憚なくお願いしますね。あればの話ですけど」
なんだ、この女。ライアン・ゴールドスミスがに抱いた忌憚ない感想がそれだった。
「いやまあ言いたいことは色々あるけどよ、まずゴールドじゃねえ。俺様は『ライアン・ゴールドスミス』か『ゴールデンライアン』だ」
「ああ、ゴールデンさん。すみません覚えられなくて」
「あんたが担当整備士って? これの?」
ライアンが着用した金色のスーツを視線で示すと、は気にした様子もなく頷く。「社員証、見ます?」「別に」そうですか、と興味なさそうに呟いて、は汚れたツナギの袖をまくった。
薄暗い印象のくせに一つ一つのライトが強い、目が悪くなりそうなスーツ格納庫の一画で、バインダーを小脇に抱えて少し背を丸めた格好は、確かに整備屋にしか見えないが。
「あんたがねえ……」
「不満ですか?」
「いや、カワイコちゃんが随分な汚れ仕事やってるもんだと思って感心してたトコ」
「好きでやってるのでお気にせず。そんなこといったらスーツらしいスーツも着用しないでヒーローしてるブルーローズさんやドラゴンさんの方がすごいでしょう。まあスーツでいえばアポロンメディアのに敵うのはないと思いますけど。ゴールドさんもそう思いません?」
「『ゴールデン』」
「ゴールデンさん」
二度も呼び間違えておいてしれっとしている彼女は、カツカツとボールペンをノックして、視線ひとつでひゅっとライアンの頭からつま先を眺めた。予告なしに検知器にかけられたライアンは、逆に品定めするように彼女を傲然と見下ろしてやった。
細身な体と青白い肌は、メカニックらしくインドア派な生活を窺わせる。整備油で汚れたツナギ(アポロンメディアマーク入り)は年季が入っているようで色あせているし、ポケットにねじ込まれた軍手もまた然り。せわしなくボールペンをいじる指先は、手入れされているのか意外にもきれいだった。
少し赤くなった瞳が、ライアンのそれとぶつかる。
「ゴール……デンさん」
少し迷った響きに、とうとう噴きだす。
「くく、アンタどんだけ俺に興味ないわけ? 超ウケるんですけど。俺のフルネーム言える? 大丈夫?」
「言えるようにしておきます。ええと、近日中に初出動がかかると思うんですけど、その時はどうぞ存分に目立ってください。ファーストインプレッションは重要ですから。まあ明日の記者会見で話題をかっさらうだろうと思うので、そこらへん心配してませんけど、一応。そういえばなんでしたっけ、あの二つ名。流れの重力王子?」
「ちげーよ、『さすらいの重力王子』だよ」
「『さすらいの』」
素直に口の中で反復するところは可愛げがあると思わなくもない。だが、たぶんすぐ忘れられて、ライアンは流れ者の二つ名を得るだろう。ゴムと油と混ざった匂いのする場所に篭りきりだとこうなるのか、と思ったが、彼女の上司である斎藤が違うのだから、たぶん彼女の問題だ。
――というか、「言えるようにしておきます」って、コイツつまり覚えてねえな。ライアンは内心で溜息を吐いた。
「言われなくても分かってるって。『できるだけ目立って』って社長にも言われてっから」
「さすがゴールデ、……ゴールデンさん」
「合ってる合ってる。ワアすごい、よくできましたー」
わざとらしく声を作っておどけてみせると、はなぜか面映ゆげに目を細め、鷹揚に頷いた。二択で迷った時点でまったく偉くはないが、ライアンもなんとなく頷いてやる。
「じゃあそういうことで、明日の会見前にもう一度ここに来てください、スーツ着こむのお手伝いします。翼パーツが大ぶりなので距離感とかちょっと慣れるまでかかると思いますけど頑張ってください」
「折ったりしても怒んなよ」
「怒りませんよ。それを直すのが仕事ですし、逆に燃えます。どんだけぼろぼろにしたって、私はあなたを万全の状態で送り出しますし、いつだって輝いていてほしいと思ってますから」
できれば壊さないでください、とかそういう言葉が返ってくるものだと思っていたライアンは拍子抜けした顔でを見下ろしたが、彼女はもうライアンを見ていなかった。疲れのにじむ目を細め、眩しそうに、ライアンの分身を眺めていた。なにか愛しいものを見るような面持ちで、瞳を金色に煌めかせながら。
「私がバックアップして、あなたが出動して、みんなのシュテルンビルトを守る。これって、私とゴールドさんも、またある意味でのバディってことですかね。……うーん、こんなこと言うとバーナビーさんに怒られそう。今のナシでお願いします」
「……『ゴールデン』」
「ゴールデンさん」