ものごとには準備が必要だ。準備がなくちゃ何も始まらない。
「斎藤さん、何ですかコレ。……発注書? 新しいヒーロースーツの? はあ。でも斎藤さん、この身体データってタイガーさんでもバーナビーさんでもないですよね。……ああそうですよね、別人……そりゃそうか、じゃなきゃ新しく作ったりしませんよね。…………あはは、やだなあ斎藤さん、秘匿情報なのは分かってますって。でもこの無茶納期、さすがやり手のシュナイダーさん。え? もう大体できてる? さすがです斎藤さん」
歩き出す斎藤の後ろについて、も地下のスーツ格納庫に駆け込む。薄暗い室内の奥に、非常灯の心もとない光だけでも彼女の目を惹く“気配”を感じた。潤滑油と磨き粉の真新しい匂い。の愛する無骨な匂いだ。
斎藤の合図とともにライトアップされた“それ”を見て、は瞠目した。
慣れない者には聞き取れない声量で、斎藤が目の前の金色のヒーロースーツの特徴を述べていく。これを着る人物が新しいCEOのスカウトしてきたNEXTであること、彼のNEXTに合わせて腕部が展開することや、合わせてロンリーチェイサーも新調すること。もう三日もすれば大々的にアポロンメディア所属ヒーローとしてこのスーツが表舞台に上がるというところで言葉を切り、斎藤はまったく話を聞いている気のしない弟子の顔を見た。
案の定、視線はスーツに釘づけのまま。二度呼びかけても反応がないのでバインダーで叩いて、の意識を引き戻した。
「…………あ……はい? なんでしたっけ。あ、三日後。はあ、もうそんな近いんですか。そりゃあ中のヒーローさんも大変ですね、せっかくのジャスティスデーはパトロールに決まりで。ああでも色んなところに出歩ける方がある意味観光になったりするものですかね? パレードなんかも観客席から眺めるよりよく見えたりしそうですし。楽しいかはまた別の話で。まあ私ら整備屋はどっちにしろ詰め所に籠るから関係ないことですけど」
言葉が途切れ、の視線が斎藤からスーツへと流れる。ライトを受けて目に痛いほど輝く金色は、視界の端に立つだけで意識を吸い寄せてしまう。
このスーツの整備を、君に任せる。
斎藤が短くそう言うと、はぴくりと肩を揺らした。
「幸せです」
饒舌な彼女にしては珍しく短いいらえだったが、十分だと思った。