建造ドックのシャッターを見つめ、提督がひどく気難しい顔をしていた。一瞬声をかけるのを躊躇わせる眼光。何をそんなに、と考える前に、提督がこちらに気づいてしまった。「陸奥、どうした?」いつも通りの物腰柔らかい笑顔。
「執務室に戻ってこないから、探しにきたの。第二艦隊が遠征から戻ってきたから報告書預かってるわ」
「ああ、そっか。補給については」
「言われた通りに」
「うちの秘書艦は優秀だ」
うまいことばっかり言って、と口では言うものの、胸がふわふわと温かくなる私は単純だ。提督はまたシャッターを見て唸る。別に故障も何もない。ただ淡々と建造完了までのタイマーがゼロに近づいていくだけだ。
「……なに?」
「ああ、うん。建造ドックが閉まってるんだ」
「建造したなら当たり前でしょう?」
「それが問題でね。“いつ”“どの程度”で建造したのか、さっぱり思い出せない」
「は?」
提督の顔を見る。至って真面目な顔だ、出撃前のブリーフィングと同じような表情をしている。え、本気? 慌ててタイマーを見上げる。もう三分前を切っていて、もはや艦種すら特定できない。この際いつはどうでもいい。問題なのは“どの程度”だ。
「提督」
「はい」
「資源がないって、出撃回数も抑えてるんじゃなかった?」
「うん」
「開発だって最低限、建造なんてもってのほかじゃない!」
「その通りです」
「大体なによ覚えてないって、建造依頼出すならもっと慎重に――」
「あ」
私の声をかき消すように、建造ドックにアラートが鳴り響く。タイマーはゼロを示し、建造中の赤いライトも消え、代わりに<建造完了>のグリーンが点灯した。
「……新しい艦ができたみたいね」
「はは」
さて、鬼が出るか蛇が出るか。もう私はそれ以上言わず、シャッターの開閉スイッチを押す提督の背中をぼんやり見ていた。軍人らしく鍛えられた、分厚い背中。それをちょっと丸める提督の眼前、分厚いシャッターが軋みながら開いていく。内側の熱が足元をくすぐり、流れていった。
「――」
中に立っていた彼女はぱちりと瞬き、私と提督を見てにっこりほほ笑んだ。
「高速戦艦榛名、着任しました」
「……戦艦」
「あなたが提督なのね? よろしくお願いいたします」
「ああ、私が提督のだ。よろしく、榛名」
淑やかに笑って、榛名が私にも会釈してくれた。私も返す。
しかし、“戦艦ができる程度”の資材をつぎ込んだ建造を適当にやってしまうなんて、提督はやっぱりぽやぽやしすぎだ。秘書艦の私がもっとしっかりしなきゃ。
「じゃあ、陸奥。榛名の案内を頼んだ」
「了解。執務室の書類、目を通しておいてちょうだいね」
「分かった」
私に向かって手を振る提督は、やっぱりいつもの和やかな笑顔を浮かべていた。だから、歩きはじめてからふと振り返ったとき、空のドックを見つめる提督がどことなく厳しい顔をしていたように見えたのは、帽子のせいだったのだろう。