三度目の正直、というやつだ。
高校一年目、同じクラスに居るボーダー隊員がお互いだけだったこともあって当真との接点は多かったと思う。その頃からすでにソロ狙撃手として有名かつ多忙だった彼に学校からの連絡事項を伝えたり、宿題がわからないとごねられて勉強を教えたり、狙撃手訓練で十割ヘッドショットを食らったり、お返ししようとしてまったく当てられなかったりする和やかな一年間だった。当真はゆるすぎるくらいゆるいやつだったが、人見知り相手にも態度を変えずに接してくれたので打ち解けるのにそう時間はかからなかったのを覚えている。
「当真、問二は解けた?」
「まだ。なあ」
確かその日もボーダーに向かう前の彼に向けて期末試験前のおさらいをしていた気がする。時期はちょうど二月のイベントで浮き足立っている頃で、私は友人たちと交換した残りのチョコレートをつまみながら当真の開きぐせのない教科書ののどを開いていた。机に肘をついた格好で重たい瞼をしたまま、当真は半分残った箱の中のチョコレートを指差している。
「それ一個くんねー?」
「その問二が解けたらあげる」
「解くためのエネルギーにすんだよ」
どうだか、とも思ったけど本人のやる気を削ぐのも悪いからと「まじめにやります」と言質をとってから残りのチョコレートの半分をわけてあげた。満足げに笑った彼は約束通りにまじめに取り組んだが、ヤベーヤベーとまったく他人事のようにぼやきながら苦戦して、結局六割程度ヒントを出すことになった。
二年目はクラスが離れたというのに、当真への伝言は引き続き私に伝えられた。今年からは彼と同じクラスになった北添に当真係を引き継ごうと思ったのでそう伝えると、「ゾエさんそれは違うと思うよ」とやんわり断られた。そのときは腑に落ちなかったけれど、考えてみれば北添と当真はポジションも違うので訓練でも顔を合わせない。そう考えると、まだ私の方が適任かもしれなかった。来年は穂刈と当真が同じクラスになったらいいな、と思った春である。
やっぱりこの一年間も大変だった。自分より当真の成績を心配していた気がする。この頃から当真がA級隊員として近界に遠征に出るようになって、しばらく休むことが増えた。
「当真」
「よお、久しぶり」
「戻ってたんだ」
「昼間あたりにな。ちょっと居ねー間にすげー寒くなっててつれーわ」
その日は雪がちらつくほど冷えた。空調管理されたボーダーでも廊下は冷え冷えとしていて、寒さ対策として換装体で居る人が多かったくらいだ。隊服で溢れる中に制服姿の当真は非日常の中に紛れた「普通」で、妙に浮いて見えた。
「向こうだと換装体で居るほうが長かったから、感覚戻すためだっつってな」
「そうか」
「なに持ってんだよ」
「これ? チョコとココア、寒くて」
「俺のが寒いだろ」
両手をポケットに突っ込んでいた当真が二歩距離を詰めて、手を差し出してきた。久々に間近で見る当真の顔はやはり気だるげで、でもどこか疲れが見て取れた。
寒いならと温かいココアを手のひらに乗せると、思わずといった風に当真が噴き出した。
「そっちじゃねー」
「チョコほしいの? そんなに甘いの好きだっけ」
「今は欲しいんだよ」
そうか、今は欲しいのか。
納得して、持っていたチョコとココアの両方を当真に渡した。彼は手元を見て少しだけ躊躇ったようだったけど、お疲れさまでしたと付け加えると口の端をあげてポンパドールの髪を揺らした。
そして、三年目。今年も当真は穂刈と同じクラスにならなかったので、当真係はなんとなく私のままだった。
三回目ともなれば当真がチョコレートを欲しがるのがこの時期だけであることにも気づく。だから今年は、先手を取ることにした。
「当真、チョコほしいでしょ」
背を向けていた彼はゆっくり振り返って、「おせーよ」と目を細めてにんまり笑った。