モーリン


 死ぬ。

「…う、………ぁ…」

 死んでしまう。指先がじりじりと、血の引いていく速さが分かるように冷たくなっていく。

 ついてない。

 海賊に身包み剥がされた上に、ぼこぼこに殴られて海に捨てられてしまうなんて、格好悪い。でもまあ、平和主義な俺らしい最期といえば、俺らしいかもしれない。サモナイト石を使い果たしていたのと一緒に命数も無くなってしまったに違いない。あー、どうしよう、俺を片付けてくれる人が、大変だろうなぁ…。まばたきをするのが辛くて、どうしよう。あ、目を閉じてればまばたきしなくてすむんじゃないの? どうしよう、俺ってばこんなときにどんな天才的思考をしているんだ。

「おい、あんた…目ぇ開けなよ!」

 目を開けたらまばたきしなきゃいけないでしょうよ、いいからほうっておきなよ。俺の死体は誰かが見つけてくれたときに適当に埋めてくれたら御の字だから「まさか死んでないだろうね」ばちん! 頬を思いっきり引っぱたきましたね、ちょっと…じんじんして、そこばかりが火がついたように熱い。轟々と燃え盛る頬の痛みに、思わず呻いた。

「おっ、生きてるね」
「う…、………あ…?」
「待ってな、命あっての物だねだろ?」

 深呼吸を、一回、二回。それから、――俺は思わず面倒だった瞬きをしてしまった。彼女の体の息をすべてと、圧縮された彼女の体温を注ぎ込まれる気がした。ぐんぐんぐん、俺の指先の血液の味を忘れていた毛細血管たちが息を吹き返していく。一本二本、可動域が増えていく俺の体に俺自身が戸惑う。まさか、召喚師? そんな、詠唱もなしになんて、じゃあこの暖かいものはなんだろう。流れ込んでくる、ゆらゆらと揺れて俺のなかに沁みこんでくる、海水のような…。

「あ、っ?」
「目ぇ、開いたね」

 目を開いて、陽に透けた金色があんまりに美しくて今度は息が面倒だと思った。