レオルド


「レオルドさん」
「…殿?」
「隣、いいかしら」

 こんばんは、と挨拶をして、隣に座り込む。まだ勉強不足だと言い張る彼は、この書庫に閉じこもって黙々と書物のインプットを続けてばかりで、私にはあまり構ってくれない。というよりも、彼にとって私は「あるじ殿の所属する機関のうちの一人」でしかない。彼はロレイラルからの機械兵士、召喚獣なのだ。そっと体を倒して、彼の体に触れてみる。冷たい装甲に、服の上からでもひんやりとした冷気がせり上がってくるのがわかった。

 でも、この硬さがすき。この冷たさが好き。あなたが好き。

「ねえ、レオルドさん」
「ハイ、ナンデショウ」
「もしもの話をしてもいいかしら」
「ドウゾ」

 あなたは優しいから、きっとこの夢物語に近い話も黙って聞いてくれる。そして私がどう思う? だなんてむちゃくちゃなことを聞いてしまっても、がんばって何かしらを答えようとしてくれるだろう。指先で彼の関節を撫ぜる、暖かさの欠片もないそれが、鼓動を打たないそれが、心底いとおしくて仕方がない。

「もしも私があなたを召喚していたら、あなたは私のことを」
「…」
「あるじ殿と、呼んだのよね」
「ソウデスネ」
「なら、私はあなたを呼ばなくてよかった」

 あるじ殿。

 そう呼ばれて、あなたに付き従ってもらえて、あなたに守ってもらえる。レオルドさん、と小さく名前を呼んで、彼の頭から垂れている長い尾のようなものに触れる。先ほどから読書の邪魔になっているに違いないのに、私がまとわりつくおかげで動きが制限されてしまうはずなのに、一言も文句を言おうとしない。機械兵士は皆そうなのだと言われればそれでおしまいだけれど、私が向かないロレイラルの召喚術を勉強しているのは、間違いなくあなたのせい。あなたのせいなのよ、レオルドさん。

 困ったような顔をしているのかもしれない。無表情の冷たい鉄の顔がこちらを向いている。「殿」、困らせるつもりじゃなかったの、ごめんなさい。私は泣きそうな顔を隠すように、彼の装甲に額を当てた。

「そうやって名前を呼んでもらえるもの」