精一杯、背伸びをする。石を投げてみる。樹を揺らす。だけれどどれを試してもどうにもならなくて、エルカはしょんぼりと眉を垂らした。どうしよう、と小さくつぶやいて、もう一度未練をこめた瞳で大樹を見上げた。
「どうしよう」
二回目のどうしよう、は、先ほどよりも絶望感を強くしてしまっていて、自分ではどうしようもないのだという事実が重く圧し掛かってくる。それはメイトルパでは感じられなかったものだけれど、それを正直に受け止められるほどエルカは正直ではなかった。ぐっと唇をかみ締めると同時に、幹に爪を立てる。
――ギギ!
「ッ!?」
木の皮が剥がれてしまう音にはっとして、ぱっと手を離してしまった。痛みがないと分かっているはずなのに、木だって樹液という血を流すのだということを重く受け止めてしまうエルカが居る。あ、と小さく洩れた声はすぐに自分と同じ勢いで地面へと落下していった。
「きゃぁあ!」
「!」
だがしかし、落下と同時に訪れるはずの地面との激突は来なかった。エルカがしっかりと瞑っていた瞳を開くと、そこにはエルカが体に引っ掛けながら落ちてきた枝葉を頭にくっ付けながら地面とエルカの間に挟まっている男が一人居た。
…人間! 瞬間的にエルカは敵意を剥き出しにして男から離れるが、男が自分を見ても何も言わないことに気がつく。ただ、ぼーっとエルカの頭上を見て、口をあんぐりと開けている。
「…な、なによ」
「……」
「エルカはここに用事があるの! あんたはさっさと」
どっかに行きなさい、の言葉は飲み込まれた。男がすっくと立ち上がり、そのまま、…細身の体からは想像もつかないような拳が木の幹に叩き込まれた。押し出されようとしていた声が、音になる前に喉の奥に押し戻される。一瞬空気が揺らめいて、次に意識したときには重力を取り戻した。
重さを取り戻した空気が、激突する。
「…、………」
「……へ…あ、あんた?」
そして、揺れた木の上からふわふわと舞い落ちてきたそれを、掴む。ぱす、と、柔らかい音を立ててやさしく葉っぱや汚れを落としてあげてから、暖かい陽の色をしたそれを、エルカの頭に被せる。一度満足そうに頷いて、男は右手に巻いた白い布のズレを直しながら木の下の木陰を出る。
「…行っちゃった」
それを呆然と見送ってから、エルカはそっと頭の上の帽子に触れる。お礼なんて言う必要はないのに、だってあいつが勝手にしたことじゃない。自分に言い聞かせながら、背中に呼びかけられた自分の名前に振り返った。
「エルカさぁん! 帽子ぃ!」
「このレビット! もう飛ばさないようにしなさいよ!」
(でもエルカは誇り高きメトラルの血を引いてるんだから、お礼くらいは、言ってあげてもいいかな)
次に会えたら。