「ペルゴ! 勝負ッ!!」
声を張り上げて、ひとつの体が宙に躍り出る。ぱっと糸目が空を見て、さらに瞳を細めた。滞空時間の異様に長いその少女は、何かを懐から取り出して大きく振りかぶったかと思えば、思い切り大柄な糸目へと投げつけた。店内の客が小さく声を上げるが、それに相反する反応として冷静にそれを掌で受け止めた男は、未だに空中に留まっている少女を見る。
「女の子がはしたないですよ、」
「うるさいッ!」
彼女が好んでいる格好は動きやすいスタイルが多く、別に飛んだりはねたりをしても支障はないが、あまりに若い女の子としての思慮深さというものが見受けられない。ペルゴは常々、大人しくしていれば淑やかそうな可愛らしい顔立ちをしているのに、と思う。だが、元看護婦という経歴を持っているのに拳ひとつで戦場を渡る女性を身近で知っているだけに何も言えない。
ふんわりと香るバターの香りに、ちらりと掌を見やった。
「クッキーは投げてはいけません」
「ペルゴの阿呆、早く食べろ!」
「では」
彼女の細い体が、捻りを加えられながらカウンターへと恐ろしい勢いで突っ込んでくる。ペルゴは片手で器用に酒瓶を床に下ろしながら、もう片方の手を自由にするためにクッキーを口に放り込んだ。少し砕けてしまっている欠片が床に落ちる。木で出来たカウンターに、が落下エネルギーとともに着地した。
「塩が利きすぎです」
「こ、…この前は甘いっていったくせに!」
「辛くすればいいというものでも…」
ばしぃ! と音を立てて打ち込んでくる彼女の小さい拳をコップを片付けながら受け止めるペルゴは、もう慣れたものだ。彼女がこうやって料理の上手なペルゴに突っかかってくるようになったのはいつからだったろうか、いつの間にやらこうした菓子の応酬になってしまっているが、最初こそ穏便なお料理教室だったはずなのである。
「でも、生焼けは解消されています」
「あ、……あっ、ああぁ、当たり前だ!」
「どうぞ」
「わぁい! …、う、受け取っておく!!」
あらかじめペルゴが用意しておいたクッキーをに手渡すと、彼女はさきほどまでのしかめっ面とは打って変わって花が咲くような笑顔を浮かべるのだ。それを知っているから、ペルゴは彼女に強くは言わない。この謎に塗れた元お料理教室を無理に元に戻そうともしない。
ぱっと彼女の体が後ろに飛び、一度二度と店の中を飛び回り、出口へと跳ねていく。
「つ、次こそは美味しいって言わせてやる!」
「グルメのペルゴを唸らせてくれるのを楽しみにしてます」
「待ってろペルゴーッ!」
捨て台詞とともに少女が扉を破壊する勢いで店を出て行った。いきなり静かに…いや、元の姿に戻った店内では徐々に喧騒が声を取り戻していく。次の少女を襲撃を待つペルゴは、次は何を作ってきてくれるのだろう、と、隠した酒瓶を元の場所に戻しながら思った。
「酒ぇ」
「スタウト、もうやめなさい」