「お帰りなさいませ、キムランさま」
「おう」
お帰りになられた私のご主人様、相も変わらず怖い顔をしていらっしゃいます。だけれども、明日に控えたサーカスを楽しみになされているのは誰もが知っていることです。私もキムランさまにお仕えするようになって長いです、キムランさまの性格は存じております。顔が怖くて三兄弟のうちでも一番粗暴そうだと思われがちですが、そうでもありません。
「明日は、寝坊なされませんように」
「たりまえだろ! ばかなこと言ってんじゃねぇよ!」
「そうでしょうか」
では明日はお部屋に入ってカーテンを開き、朝の光を射れる作業をお休みさせていただいてもよろしいでしょうか。久々に朝食を作っておくだけだとしたら、少しばかりゆったりとした朝を過ごせそうなのですが、…いえ、いえ、どうやらそれは微妙な線です。キムランさまの顔がどよんと曇ってしまいました。
「…いいえ、心配ですのでぜひ起こしにいかせてください」
「し、…しかたねぇな!」
「ええ、…キムランさま。靴が汚れております」
警備隊長であるキムランさまは、このリィンバウムを隅々まで歩き回って警備をしていらっしゃいます。マーン家の名物である三兄弟の中で、一番靴に気を使っていらっしゃる方であり、一番早く靴を買い換えなければならない方でもあります。廃棄前の靴を拝見したことがありますが、靴の底が磨り減ってしまい、少しだけ高い靴底のものだったのを知っている私はただただ驚くばかりでありました。
ぱっと、靴磨きを取り出し、その高い靴を磨きます。大人しく磨かれてくださるようになり、私たち使用人としてはずいぶんと安心して靴磨きに専念できるようになりました。
「そろそろ靴を買い換える時期ですね」
「ああ」
「次も同じものを用意しておきます」
私のポケットには、キムランさまの靴磨き用のブラシが常に入っております。出かけていくことが仕事な方だからこそ、靴はきれいでなければならないのです。それに、あなたがきれいな靴を履いていらっしゃるというその事実が、私に安堵を与えてくれます。
「ご苦労さん」
本当は、やさしい人なのですから。