「はいお嬢さん、どうしました?」
「え、あ…」
こんなところでほっつき歩いているお嬢さんは、見たことがある。最近南スラムのほうのフラットらへんによく居る子だ。しかも召喚術が使えるくせに召喚師ではないと言い張る子だ。にこにこ笑いながら、俺は彼女の上から下を眺める。茶色い髪、茶色がかった瞳、すらりとしているけれどまだ女性ではない女の子。可愛いなぁ、お兄さん可愛い子大好きだから。
「べ、別に!」
「そお? じゃあお兄さんから忠告。ここらへんは、オプテュスっていう…」
「あ、うん…」
聞き飽きてるよね? 表情から窺えるよ、バノッサさんとかオプテュスとは関わるなって言われてるんだよね。フラットのやつらはお人よしが過ぎるからさ、君を思いやるあまりに俺たちから遠ざけようとしてるんだ。でもちょっと、遅かった。君はバノッサさんに知られてしまって召喚術が使えて南スラムに行き着いて、北スラムに来てしまった。
「バノッサさんが来ちゃう前に、退散しといたほうがいいよ」
「う、うん…あ! ねぇ、猫みなかった?」
「うん、見た」
猫を追いかけてこっちまで来たなんて、なんだか可愛い子だなぁ。南スラムから北スラムの間からふわふわしながらここまで来たのかぁ、君のほうがよっぽど猫みたいだよ。君の少し明るい茶色の髪の毛なんて、うん、背中がふわふわしてる猫みたいだ。泥の中に転がしたいなぁ、べたべたになった毛並みを無理やり撫でてやって、嫌がってみぃみぃ鳴くのを笑ってやりたい。あぁ可愛いんだろうなあ、でも俺は紳士的だからそんなことはしない。
それに、人目がある。
「あっちに、君の黒猫がいる」
さっきからロレイラルのサモナイト石を、掌の中でごろごろさせているのは、君とよく一緒に居る子だろう? 俺をにらんで、ぎっちぎちに視線で縛り付けている。白いマントなんていい感じ、スラムには似つかわしくない清潔そうな綺麗な子だ。とん、と彼に向かって歩けるように背中を押してあげる。
「そのうちまたね」
オプテュスの一員として、次は紳士的とは言えない剣戟を浴びせてあげる。あぁ楽しみだなあ、君の苦痛に歪む顔ってとっても魅力的だと思うから。