「寒い」
「今日は大丈夫とか言ってカイロ持ってこなかったのは誰だ」
「…俺です」

 隣で、マフラーに鼻先まで埋めてしまい、顔の判別が怪しくなってしまっているのは俺の幼馴染だ。竹谷さんちの息子さんだ。寒い寒いといいながらも外に出て体を動かすのが大好きな野生児と言ってもいいくらいの健全な高校男子だ。それに対して俺は、まあ、寒い日はこたつに居たい派だし、自分が寒い思いをしないようにという準備は万端にする男の子ですから、と幼馴染との違いを感じながらも両方のポケットに入っているカイロを揉み解す。

「おはよう。八左ヱ門、
「雷蔵おはよう」
、俺には? 俺は?」
「挨拶はしてくれた人にしか返さねえよ」

 まるで雷蔵の影が意思を持ったのかと思われるくらい、ぴったりと背中にくっついていた三郎がにょろりと俺の横につく。いつもどおりのワックスの匂いに、これもまた日常の朝だとぼんやり思った。グッモーニン、なんて無駄にいい発音しやがって、と思いつつちゃんと日本語で挨拶を返す。おはよう、三郎。

「あーあ、わかってないね! こういうのは英語で返すところだろ」
「グッモーニン」
「うおびっくりした、兵助! 気配は消すなよ!」
「兵助おはよう」
「え、もしかして俺のこと嫌い?」

 まさか嫌いなんてことないよ、お前のノートすきすき大好き。ついでに三郎の字も好き。矢継ぎ早にそう言って、カイロ二つを揉み解す手を休めながら、兵助の後ろに隠れてしまったから挨拶をし損ねて身じろいでいる勘右衛門の首を引き寄せた。いいなあ、こういうの。前は勘右衛門はこうやると真っ赤になってすぐ離れちゃってさびしくて――、あれ? なんだそれ。

「――さん!」
「あ、八左ヱ門くんだ! 今日は…勘右衛門くんと一緒?」
「もう名前覚えてくれたんですね、はは」
「当たり前! だって私の大事なお友達だからね!」

 なんで、くん付けとかしてんだ俺。それに、二人ともなんか格好がおかしい、今の時代じゃありえない。着物趣味があるとも聞いてないし、それに、長髪になってるとかお前ら本当にどうしたの。にこにこしながら俺じゃない私は二人に手を差し伸べて、自分の指の白さと華奢さにびっくりした。はっとすると、私は髪の乱れに気づいてそれを直そうとする。すると、八左ヱ門くんが私の頭を撫でてくれて、思わず笑顔がこぼれた。「私」と少し年の離れた男の子は、笑顔が素敵なのだ。

 何回か見たことのある光景だ。だけれどもはっきりとはしない。あるときは古い家の中、あるときは綺麗なお姉さんが居るうどん屋で、別のときは団子を食べている。共通しているのは毎回、「私」が誰かと一緒であるということと、そのうちの一人は必ず、とってもうれしそうに笑ってくれて、いつも私を守ってくれた。泥の跳ねそうな道では守ってくれて、暗い夜道では必ず一緒に歩いてくれた。たまに触れ合う指先に、びりびりする心臓が毎回、甘くて、どうしようもなくなってしまう。
 ――私は忍たまのみんなが、だいすきだった。


?」
「うお、…な、なんだ? 何があった?」
「なんもねえけど、目の前」
「へっ、…ぐあ!」

 目の前がなんだ、と聞く前に、「俺」はがっつん! と電柱に額をぶつけた。鈍い痛みに、ぎりりと歯をかみ締めて、額を押さえて座り込んだ。うあー…と呻き声が洩れると、三郎が噴出した。ちくちょうお前…! そう思いながら立ち上がろうとすると、誰かががしっと掌を掴んでそれを手伝ってくれた。

「八左ヱ門」
「大丈夫か? お前、手えあったかいなあ」
「おう、まあな」

 手を繋ぎあえる関係は支えあえる。髪を撫でてもらえる関係はくすぐったいけれど、甘い。どちらがいいのかというのは今の俺が決められることじゃないけれど、今はこれでもいいなあなんて思えるのだ。

「カイロ、一個やるよ」
「まじで! うおおおありがとう!」