口を「ま」の形にしたまま硬直した隣の男をどうしてやろうか、仙蔵はちょっと悩んで、それから大げさなほど目を丸くしてみせた。
「! お前、もらう当てがないとばかり思っていたのにやるな」
「……あ、……いや、……何かの間違いだろう」
「駆け寄ってきたかと思えば『先輩!! 受け取ってください!!』の勢いで渡されたそれを? 何かの間違いだと?」
「……」
間違いじゃないことは彼自身が一番わかっているはずだ。不器用かつ照れ屋のこの男はぐうと喉の奥で様々なものを押しつぶし、渡されたそれを睨みつけている。甘さのバランスの取れたチョコレートバーの詰め合わせは飽きないよう様々な味が入っていて、案外甘いものを好むこの男が喜びそうな一箱である。相手の気遣いが伺えた。
「ああ、ありがとう。……ほら、いつまでも廊下に突っ立っている場合じゃないぞ。次は美術室だ、遅刻して文次郎に怒鳴られるのはいやだろう」
「……ああ」
移動教室の間にも仙蔵は渡されるチョコレートをにっこり微笑んで受け取り、手にした紙袋に納めていく。女子たちも気安いもので、仙蔵相手にキャアキャア楽しげに笑うだけで隣ののフリーズを完璧にスルーしてみせた。
思いもよらぬ襲撃を受けて思考停止しているのか、のろのろ歩き始めたは寝ぼけたように目を瞬かせている。
「ひと月後が楽しみだな」
「……まず名前を」
「ああ、後輩だろうが……同級生以外は全員後輩だからな。まあ、がんばれ」
仏頂面をして手の中の箱を眺めていたは、手にしたスケッチブックの上にそれを置いて、振り切るように足を早めた。仙蔵は軽やかに笑いながら足並みを揃えて歩き出す。
窓の外は冴え冴えと冷えているのに、ふと叩いた友人の背は熱を帯びていた。