二人一組の校外実習も、六年生ともなれば戦さ場を駆け抜けて行くような危険度の高いものになる。学園を出て三日目の夜ともなると見慣れた裏裏山も今は何処へか、彼らは戦の名残が散らばる獣道を行く影となる。
「文次郎、ひと雨来そうだ」
先を進む友の背中に声をかけると、は笠の縁を指で押し上げた。東の空が暗い。厚い雲がこちらに進んできているのに間違いなかった。
「この山で夜を越すか?」
「いや、ここは地盤が緩いから雨中の野営は不向きだ。少し進んで山を抜けるぞ」
「了解した」
相変わらず隈の濃い目を眇め、文次郎が茂みに張り付いて破れた旗を眺める。見慣れぬそれは、最近とんと名前を聞かぬカキシメジ城のものである。四方を山と敵城に囲まれ、虎の尾を踏まぬようと常に息を潜めている城が戦をしたという話は耳にしていない。そも、今回の実習はカキシメジ城を囲む内のひとつ、カノシタ城に戦の気配ありとの情報を得たことによる偵察任務であるからとても無関係とは思えなかった。
「、どう思う」
「カキシメジがカノシタにやられた、あるいはカノシタと手を組んで水面下で戦をしている」
「敗走であれば噂のひとつあるはずだが、ここまで不自然なほどカノシタの話しか聞かない。密約によって手を組んだと見るのが妥当か」
「手を組んでどこを狙う」
「よく領地を掠めて進軍していくドクタケを追い払いたいのか、それとも……」
「ドクササコか」
声を低くして茂みを行く二人の笠を、ひとつ、ふたつと雨粒が叩く。もうじきに山を抜けられる。駆け抜けた先、山の麓に村の明かりを見つけた頃には全身が絞れるほど濡れてしまっていた。
村は明るく、笑顔だった。ひどい格好で一晩の宿を求めた二人を見て一も二もなく屋根の中に引き入れてやり、湯を沸かし、粗食だがと謙遜しながら米と魚を振る舞ってくれた。
「助かったな」
「ああ、本当に」
「大変だったろう、ゆっくり休んでいきなさい」
村長だと名乗る男が笑い皺を深くしながら茶を勧めてくるのを断って、は正座を崩さない。文次郎もまた健気にも微笑みを浮かべたまま、あちこちに感じる視線を往なしていた。
「ここは穏やかでいい村ですね」
「ええ、最近は戦もなく落ち着いた暮らしができています。収穫も終わってしまっていて景色は寂しいものですが」
「収穫の時期には早いような」
「ああ、いえ、育ちがよかったものでね……」
村長が席を外すと、文次郎は穏やかでいようと努めていた目をぎらりと煌めかせた。は元より鋭い視線に磨きをかけ、鍛えられた白刃のような切れ味である。
「気づいたか」
「気づかんでか。カノシタの件は忍術学園に届くほどだ、この距離の村が知らないわけがない」
「戦もなく、か。嘘が下手だな」
手短に素早く矢羽根でやり取りを済ませたあと、ふと視線を合わせる。今までもこうして背を重ね、修羅場をくぐり抜けてきた。おそらくこの村は既にカキシメジかカノシタの手に落ちていて、収穫前の畑は意図的ではないにせよ焼いてしまったのだろう。いま、二人は敵の腹の中にいた。
「さて、どうする」