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「……ふうん、そうか、土井先生はそこを出すって」 「ー誰と話してんの?」 「…虎若、なんでもないって」 僕は、虫や獣の言おうとしていることがなんとなく分かる。あいつらだって僕の言おうとしてることを分かってくれる、僕とあいつらはれっきとしたともだちだ。母さんや父さんが信じなくても、誰も信じなくたっていい。僕のかんがえは変わらない、これは僕だけのものだ。あいつらは僕のともだちだって、それだけ分かってればいい。 あいつら、とっても賢いんだ。僕が明日ここらへんをテストするらしいんだ、と言ったらふっと飛んでいって、すぐにひらひらと戻ってくる。そうしたら僕の忍たまの友のある箇所をひらひらと飛んで、ここだよと言わんばかりに教えてくれるんだ。さっきだってきっと土井先生と山田先生の部屋まで飛んでいって、今から作ってるだろうテスト用紙を見てきてくれたんだ。これだって忍の生き方のひとつ、ずるいだなんて言われるおぼえはないね。ありがとう、と小さく呟いて、僕は先ほどまで指先で戯れていた蝶々たちに別れを告げる。そうしたらふわふわと花弁が風に散るみたいに空に消えていく、なんて綺麗なんだろう。 「一年は組ッ、はいるか!」 「あ、五年ろ組の竹谷八左ヱ門先輩」 「になんか用すかー?」 「僕ら、今日のテストの予習で忙しいんですけどー…」 「そんなバヤイじゃない! 居るのか居ないのか!」 「……………」 誰だ、あの人。タケヤハチザエモン? 知らない、僕の知らない先輩だ。青紫の制服は五年生のものだ、五年生が僕に何の用事だ。呼び出されていい思い出なんてない。どうすればいい、僕はそろりと忍び足で後ろへと足を引く。きっと面倒ごとだ、は組の勘がそう言ってる。そろそろり、出て行こう。 そう思った瞬間、ぐっと襟首を掴まれた。ぐえっ! こ、この力の強さは…ちらりと見ると、ああキラキラした目がタケヤハチザエモン先輩を見ている。 「竹谷先輩! ならここですよ!」 「とっ、虎若…お前!」 「お前がか」 「ひっ!」 さすが五年生、近くで見ると大迫力、というかいつの間に僕の目の前に移動したんだよ…! 僕よりずっと大きくて筋肉質で、手入れなんてしてなさそうな髪の毛が特徴的なこの先輩が竹谷先輩か。面倒ごとは嫌なのに、火縄銃を筆頭に火器大好きな虎若はいつもトレーニングを欠かさないだけあって掴んだものは離してくれない。僕の制服はきっとこの部分だけしわくちゃになってるだろう。ぶかっこうだ、全く。 僕は、指で輪っかを作る。 「、お前を…」 怖いです先輩。 僕は輪っかにした指を口元に持っていって、息を噴出す。甲高い音がは組の教室に響いて、皆が僕を見る。喜三太がナメさんを隠そうとしているが大丈夫だ、この音は喜三太のナメさんたちには「効かない」音なのだ。音が強かったのか、目の前で竹谷先輩は目をぱちぱちと瞬かせている。何かを続けようとした先輩の声を遮るように、窓から、羽ばたきが聞こえた。 え? 「どうして、お前は呼んでな――」 い、と続けようとしたところで、僕は窓に駆け寄りかけた足を止めた。嬉しそうに、見て見て! と言わんばかりに鷹が僕に向かって、足で掴んでいる何か、長いものを――べろりと、見せる。長くて、にょろにょろしていて、そしてなんともいえない毒々しい色をしている…同時に、窓の外、下の方から悲鳴のような叫び声が聞こえた。 しゃー。 「ジュンコオオオオオォ!」 「ばっ…そ、それはえさじゃない! 返してこい!」 「………」 はっとして振り返ると、は組の全員がしんと静まり返っていて、僕を見ていた。ああ、やっぱり嫌われるだろうか恐れられるだろうか。父さんのようにふざけるのも大概にしろと殴られるだろうか、母さんのように僕が気を違えたと泣き喚くだろうか、これで僕はどうしていけばいいんだ。みんなの反応を見る前に教室を出て行ってしまおう。駆け出す直前、僕の腕が大きくて力強い掌に掴まれた。 「お前、生物委員に来てくれないか!」 「はっ?」 僕の腕を掴んだ先輩の顔は、きらきらとした瞳で、僕を見ていた。あの落胆の目でも侮蔑の目でもなく、僕があいつらに向けるようなそんな目で僕を見ていた。どうしてそんな顔をするのだろう、僕は人じゃないあいつらと友達になれる特殊なのに。それを皮切りに、は組のみんなが飛び掛るように僕に駆け寄ってきてぎゅうぎゅう詰め、苦しい、なのにみんなきらきらしてる。 「、! なに今の、どういうことっ?」 「銭取れる!?」 「ナメさんともっと仲良くなれるようになれるかなあ?」 「今の笛じゃなくて指?」 「指笛って僕できないやぁ」 ああ、なんてきらきらしてまぶしくて、幸せな光景なんだろう。ようやく皆に隠してきたこんな僕の特技と、大切なともだちを胸を張って紹介できそう。竹谷先輩はにかっと笑って、僕の頭を撫でる。 僕は、僕はやっと皆と本当のともだちになれそうだ! |