「ハッ。ケダモノじみやがって」
与えた部屋の隅で、それは爛々とぎらつく目をして俺を睨んでいた。もう人語を介さなくなって三日経つが、今日ならまだ間に合う計算だった。
「」
なるべく穏やかに話しかけたつもりだったが、やつの目はみるみる濁った黒から光り輝く黄金に変化していく。まるで朝日が昇っていく明け方のような色合いが眩しくて、俺は目を細めた。
がスタンド攻撃を受けているらしいと真っ先に気づいたのは俺だった。ある日、ありふれたつまらないやり取りでなぜか腹を立てたが掴みかかってきたとき、奴の目がざわついたのを見てしまったのだ。アンバーの向こうで、炎が燃えるようだった。いや、「ようだった」といっても納得できない比喩ではなく、ほんとうにやつの目は炎のように赤くなったのだ。
いつもは流すはずの些細なやり取りに突っかかったのも、虹彩の変化も、最初は緩やかな変化だった。ちょっとしたことではぐらつかないはずの図太いはずのコイツは、気付いたときには手負いの獣のようになっていた。
「テメーこの前のことまだ根にもってやがんのか? だとしても、ありゃテメーが悪いぜ。躾っつーやつだ」
「ウウ……」
「学習したならもう噛むなよ。また凍りたくなきゃな」
前回の「食事」のとき、前後不覚に陥っていたは俺に飛びかかり、真っ赤になった目で俺の喉元にがぶりと噛みついてきた。のしかかる体重が明らかに前より軽くなったのをダイレクトに感じて背筋がぞっとした。だというのに、吐息混じりの呻き声が寝起きの悪い朝のそれと同じで、なんだか無性に悲しかった。
俺は近寄らないに、皿を差し出す。ぐちゃぐちゃに煮詰めたリゾットだ。中に混ぜ込んだ医療系スタンドの生み出したトカゲがヤツの精神に効くらしい。本当に効くかなんてわからねえが、相手のスタンド使いを殺してから症状が発覚した今ではそれに頼るしかなかった。
は戸惑っていたようだが、やがて瞳が黄金から敵意のない青へ変わるのがわかり、一息つく。のそのそ近寄ってきたは、食器にそのまま顔を近づけ、食らいついた。ぐちゃっと粘っこい音。
「……行儀についてはうるさかったくせによ」
四つん這いで皿から直接ものを食べるなんて、正気に戻ったこいつが知ったらどうするだろう。絶望するかもしれない。
だがどうせ絶望したことすら忘れて、人間の姿をした獣に成り下がってしまうのだからあまり関係ねえか。それでも俺はやつの目が正気のアンバーに戻るのが見たくて、じっとそいつを見下ろしていた。
(は感情によって虹彩の色が変化する病気です。進行すると自我を失います。トカゲの尾が薬になります。)