むちゃくちゃに暴れた。大事な仲間にこんなことをされる覚えはなかった。感情が先走ったわけのわからない言葉を叫びながら、俺はのしかかるホルマジオを殴る。
「大人しくしろって」
「うるせえッ、離せ、離せ!」
「しょおがねえなぁ」
いつも通りの口癖だ。だが、やつの目はいま感情のない冷たいもので満たされていた。俺はこれを知っている。これは、任務中にターゲットに見せる、人間の皮を破った敵意だ。
ホルマジオの背後に浮かび上がったリトル・フィートの口が大きくゆがむ。やつはげたげたと笑いながら指先の刃を震わせ、俺を見る。
裏切り者、と、やつは『叫んだ』。
「ひ、ッ」
「口開けろ、暴れんなって」
のしかかるホルマジオの強健な体に、俺は為す術もない。おそらく縮み始めているだろう俺の顎を掴んで、ホルマジオは笑った。
「これで全部楽になっからよ、飲んでくれや」
小さい紙の包みを開き、何か粉らしきものを俺に見せる。なんだ? 楽になる? 毒か麻薬か、自白剤か。首を振ると、額に伸びた角が遠心力で大きく振られ、重さに頭がぐらつく。いつから生え始めたのか、気がついた頃には5センチだったのが今では15センチほどになる。
リトル・フィートが俺の角を掴んだ。あまりの激痛に呻くと、哄笑の合間に、やつの声が意識に飛び込んでくる。『しね』、『うらぎりもの!』 やつの言葉は空中に文字として浮かび上がり、俺の網膜に直接擦り付けられる。やめろ、やめてくれ。
「ぐ、うッ」
「飲んでくれよ、……頼むからよォ……」
『しね』・『しね』・『今すぐしね』!!
笑うリトル・フィートを背負って、ホルマジオの目が暗い光を帯びた。膝で肩を力強く押さえつけられ、喉の奥に粉末が落とされる。張りつく無味無臭の硬い感触。砂のようだった。吐き出そうにも押さえつけられて顎を固定されちゃ動けもしない。ホルマジオのごつごつとした手に鼻を塞がれ、嫌な汗が噴き出た。
「おえッ、ン、ぐ!」
すかさずミネラルウォーターのボトルをひっくり返され、俺はむせ返り、えずき、とうとうその粉を飲んでしまった。身に覚えのない裏切りの制裁を受けて死ぬなんて。
痛み、焦燥、酸素の回らない意識がぼんやり遠ざかる。
「……い、。ッ」
「う、ぐ、ホルマジオ……」
「大丈夫か? 俺の声聞こえてっか?」
堅く瞑っていた目を開くと、そこには真剣な顔をしたホルマジオが安っぽい蛍光灯を背負っていた。恐ろしい形相をしたリトル・フィートは掻き消え、そこにはホルマジオだけだ。
びっしょり汗をかいたせいで張り付いた俺の前髪をかき分け、やつはほっとしたように笑った。先ほどまでの刃物のような冷たさは鳴りを潜め、そこに居たのはいつものホルマジオだ。
「薬だっつってんのに、毎回パニクって忘れやがってよお」
「薬……」
「マジに頼むぜ、毎回殺しでもやってる気分になるからよ。水飲めるか?」
「おう……」
差し出された水を飲もうと上向く。そうして俺は目を見開き、凍りついた。
ホルマジオの背中にぴったりと張り付くリトル・フィートと目が合った。やつはにったりと笑って、ギイギイ軋ませ口を開いた。
「うらぎりもの」
やつの口からこぼれたのは、俺の声だった。
(は額からツノのような突起が生えてくる病気です。進行すると幻覚が見え始めます。星の砂が薬になります。)