「和己くん、喉渇いたね」
「ん、そーだなあ」

 じりじりとコンクリートを照りつける日光を睨みながら、私はばたばたとスカートを揺らした。はしたないとでも言わんばかりの目線を送ってくる和己くんはちっとも欲情の顔を見せない。そんなに女の子としての魅力、無いかなあ…。でもいい、私は和己くんの隣に居られるだけで別にいい。

「暑いなー」
「うん、暑い」

 もう夏休みも過ぎて、高校三年生である私たちにとって戦いはもう目前だ。本当は和己くんも勉強を優先させたいはずなのに、こうやって私と過ごす時間を作ってくれ、大切にしてくれる。少しでも私のことを想ってくれているんだなってうぬぼれることができる余裕があるのもたまにはいいでしょう? いつも私は和己くんに頼ってばっかりで惚れ直してばっかり。ふと見せる真面目な顔とか笑った顔とか、しょうがねえなあって困ったように笑う仕草、目を細めて私の頭を撫でてくれる大きな手、抱き締めてくれる逞しい腕、負ぶってくれる暖かい背中、好きだ、和己くんが好き。

「えへへ」
「ん? どうした?」
「なんでもない」

 そうか、なんて返事をして、私を見下ろすその目も好き。太陽を背負っているように立っているから眩しくて見上げられなかったけど、彼が笑っているのが雰囲気で分かった。ねえ和己くん、私ね、和己くんのことが大好きなんだよ。

「今年はどこも遊びに行けなかったねえ」
「まあ、しょうがないだろ」

 海に行ってみたかったなあ、なんて呟いてみる。夏らしいことを何もすることができなかった。まあ受験生のさだめだから今年は我慢する。来年はいけるかなあ、来年もこうやって一緒に居られるかなあ。和己くんはとっても頼りがいがあるし、みんなに優しいから私はたまに心配するんだよ。いつか誰か他のひとに振り向いちゃうんじゃないかとか、信じてないんじゃないけど、たまに不安になることぐらいあるんだから。

「来年は連れてってやるからさ」

 こうやって、さらりと言ってしまうところも、何もかもが私を惹き付ける。ねえ和己くん、それは来年も和己くんの隣に居てもいいっていうことだよね。私、まだうぬぼれててもいいのかなあ。和己くんの隣はいつも心地良くて安心できて、いつまでも誰にも譲りたくないってわがままを思ってしまう。これを口に出したことはないけれど、言ったら幻滅されてしまうだろうか。

、ちゃんと水分取ってるか?」
「取ってる取ってる、取りすぎて水太りしたらどうしよーかなあ」
「無理はするな。十分細いから、それ以上細くなられたら俺が困るよ」

 和己くんは知らないんだよ、制服のシャツの下のお腹とか、袖に隠れてる二の腕とか、スカートの中の太ももとか。本当は和己くんが思ってるより太いに違いない、…どうしよう、和己くんの中での私が細かったら現実との違いに嫌われちゃうかもしれない。やっぱりダイエットかな、今日から夜のアイスは控えようかなあ。でもまだ毎日暑いし、和己くんの塾の帰りとかに寄るコンビニでは必ずアイスコーナーに引かれちゃうし、困った。障害がありすぎる。
 ぷに。

「…ぎゃ!?」
「全然太くない、と、思うけど」
「な、ななななな!」

 そう、こういう何のやらしさもなく人のお腹を触れちゃうところも和己くんらしさだ。ここで慎吾くんなら二の腕まで触るから嫌なんだ…! 「和己は色が白い方が好みらしいぜ」なんて言うから今年は日焼け止めを二本も使っちゃったし…夏休みは終わったのにこの日差し、あと一本くらい買っておかなきゃだめかも。でも和己くんのためならなんとも思わないんだ。ぱた、と、コンクリートの上に汗が落ちた。

「…和己くん」
「あ?」
「暑いね」
「ああ」

 暑いな、そう言って逆光の中で笑う彼は、どこまでも優しい。
 気づいてるんだよ、さっきからずっと。和己くんの大きな体が私を日光から守るように日陰になってくれてること、私を暑さから避けてくれてること。汗なんてだらだら垂れてるのに、座らずに私の横に立って影を作ってくれていること。

「暑くて動きたくないな」

 私を見て、和己くんがにっと笑った。クーラーの効いた部屋は勉強してるクラスメイトだらけだから、こんなところでしか和己くんのこの顔は見られない。キャッチャーらしいこの笑顔が私は大好きで、無意識のうちに頬が緩んだのに気づいた。
 格好良すぎだよ。






「来年は遠出しようか」
「え?」
「免許取るよ、のために」